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高齢のメス犬に多い乳腺腫瘍|避妊手術の効果と見逃したくない初期症状とは

「なんとなく胸のあたりに、ふくらみがある気がする…」
そんな小さな気づきが、実は愛犬の体からの大切なサインかもしれません。

乳腺腫瘍は、特に避妊手術をしていない高齢のメスの犬に多く見られる腫瘍のひとつです。
良性と悪性があり、早期に見つけて適切な対応をするかどうかが、その後の治療や回復に大きく関わってきます。

今回は、犬の乳腺腫瘍の症状、診断方法、治療の選択肢、そして日常のチェックポイントについて解説します。

■目次
1.乳腺腫瘍とは?
2.症状
3.ご自宅でできるセルフチェックの方法
4.診断方法
5.治療法
6.回復までの流れ
7.乳腺腫瘍を防ぐために今できること
8.避妊手術についての不安や誤解を解消
9.まとめ

 

乳腺腫瘍とは?

犬の乳腺腫瘍とは、乳腺の組織にできる「しこり」のことを指します。
特に、避妊手術を受けていない高齢のメス犬に多く、犬にできる腫瘍の中でも比較的よく見られる病気のひとつです。

この乳腺腫瘍には、大きく分けて「良性(命に関わらないもの)」と「悪性(いわゆるがん)」の2種類があり、その割合はおおよそ半分ずつといわれています。

なかでも悪性の場合は、腫瘍がリンパ節や肺へ転移するリスクもあるため、早期に発見し、適切な治療を受けることがとても大切です。

実際に、乳腺腫瘍は「どれだけ早く見つけられるか」が、その後の治療方針や回復の見通し(予後)を大きく左右します。

 

症状

乳腺腫瘍は、初期の段階では痛みなどの目立った症状が少なく、飼い主様が気づきにくいという特徴があります。

そのため、日ごろから愛犬の体に優しく触れる習慣をつけ、ちょっとした変化に気づけることがとても大切です。

 

<初期に見られるサイン>

初期段階では、次のような小さな変化が見られることがあります。

・乳腺のあたりに、小さなしこり(米粒大〜小豆大)を触れる
・乳首のまわりに硬い腫れがある
・一部分だけ、皮膚が盛り上がって見える

 

<病気が進行すると見られる症状>

腫瘍が進行してくると、次のような症状が現れます。

・しこりが急に大きくなる
・しこりが赤く腫れる
・腫瘍から出血したり、潰瘍(皮膚がただれる状態)を伴ったりする
・乳腺まわりが熱を持っている
・腫瘍が破裂し、膿や血が出ている
・呼吸が荒い、食欲がないなど、全身に不調が見られる

このような変化が見られた場合には、できるだけ早く受診しましょう。

食欲不振についてはこちら

 

ご自宅でできるセルフチェックの方法

乳腺腫瘍の早期発見のためには、日ごろから愛犬の体を観察することが一番のポイントです。
月に1回程度を目安に、次のような手順でチェックしてみましょう。

犬の乳腺腫瘍のセルフチェック方法を解説する図。愛犬をリラックスさせてから、乳腺部を両手で優しく触れ、指で軽くつまむように確認し、左右差を比べる4ステップを紹介している。

少しでも異変を感じたら、早めに動物病院へ>

小さなしこりでも、数日〜数週間で急に大きくなることがあります。
「いつもと違う」と感じたら、そのままにせず、できるだけ早く動物病院に相談してみてください。

 

診断方法

乳腺腫瘍が疑われる場合、動物病院では以下のような検査を組み合わせて腫瘍の状態や進行度を詳しく調べます。

視診・触診
しこりの大きさ・形・硬さなどを手で触って確認します。
さらに、乳腺だけでなく、周囲のリンパ節の腫れや全身状態のチェックもこの段階で行います。

 

超音波検査(エコー検査)
超音波を使ってしこりの内部を映し出し、腫瘍の構造や広がり、転移の有無などを調べます。
体に負担の少ない検査で、痛みもありません。

 

レントゲン検査(X線検査)
乳腺腫瘍が肺など他の臓器に転移していないかを調べるため、レントゲン検査が行われます。
特に悪性腫瘍の場合は肺への転移リスクが高いため、この検査はとても重要です。

 

細胞診(FNA:針生検)
しこりに細い針を刺し、細胞を採取して顕微鏡で観察します。
これにより、良性か悪性かの判断材料になりますが、細胞診だけでは確定が難しいケースもあるため、必要に応じて追加の検査が行われます。

 

生検(組織検査)
腫瘍を手術で摘出し、その一部を詳しく調べる検査です。
細胞診だけでは判断が難しい場合に行われ、確定診断をするための最も信頼性の高い検査とされています。

 

治療法

乳腺腫瘍の治療法は、腫瘍の性質(良性か悪性か)、進行の程度、そして愛犬の年齢や健康状態によって異なります。ですが、最も一般的で効果的とされているのは「外科手術」です。

外科手術は、腫瘍をできるだけ完全に取り除くことを目的に行われます。
しこりの大きさや場所によって、以下のような手術方法が選ばれます。

部分乳腺切除:腫瘍が小さい場合、その部分だけを切除

片側乳腺切除:腫瘍のある側の乳腺全体を切除

両側乳腺切除:両側の乳腺をすべて取り除く

 

術後の入院期間は、一般的に数日から1週間程度です。
ただし、腫瘍の状態や愛犬の体調によって異なるため、獣医師の指示に従って無理のないケアを心がけましょう。

また、手術後は傷口の管理や抗生物質の投与が必要です。
傷を舐めたりこすったりしないよう、抜糸まではエリザベスカラーの着用が勧められることもあります。

 

<進行している場合の追加治療>

もし乳腺腫瘍が悪性で、すでに転移の疑いがある場合や、手術だけでは対応が難しい場合には、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療などが検討されます。

ただし、犬の乳腺腫瘍においては、化学療法の効果が人間に比べて限定的な場合もあるため、治療の可否は愛犬の体調や生活の質を考慮しながら慎重に判断されます。

 

回復までの流れ

手術は基本的に1日で終了しますが、その後の回復には数週間かかることもあります。
術後の様子を見守りながら、食事やお散歩など、日常生活に少しずつ戻していきましょう。

また、予後(回復の見通し)は腫瘍の性質によって異なります。

・良性の場合:術後の経過はおおむね良好で、再発のリスクも比較的低いとされています。

・悪性の場合:肺やリンパ節への転移リスクがあるため、術後も定期的な検診が欠かせません

 

<術後も大切にしたい「定期健診」>

乳腺腫瘍は、たとえ手術で取り除いたとしても、再発や転移の可能性がまったくなくなるわけではありません。だからこそ、術後も定期的に検診を受けることがとても大切です。

一般的には、手術後3〜6ヶ月ごとに動物病院で診察を受け、しこりの再発や他の部位への転移がないかを確認します。

特に、体の中で起きている変化は外からではわかりにくいため、獣医師による定期的なチェックが早期発見につながります。

 

乳腺腫瘍を防ぐために今できること

乳腺腫瘍は、予防が可能な数少ない腫瘍のひとつであり、「避妊手術」は、その発症リスクを大きく減らす効果があるとされています。

ここでは、飼い主様が日常の中で取り入れられる乳腺腫瘍の予防法について、ご紹介します。

 

<適切な時期での避妊手術>

避妊手術のタイミングによって、乳腺腫瘍の予防効果は大きく変わります。

初回発情前(生後6ヶ月頃)に避妊手術を行うと、乳腺腫瘍の発症リスクが約99%も減少するといわれています。

初回発情後〜2回目発情前での手術でも、約90%のリスク軽減が期待できます。

・2回目の後は約74%のリスク軽減となりますが、3回目以降では予防効果はないと言われています。

 

また、避妊手術は乳腺腫瘍だけでなく、子宮蓄膿症や卵巣の病気など、他の病気の予防にもつながります。
愛犬の将来を考えるうえでも、避妊手術について一度しっかりと考えてみることをおすすめします。

子宮蓄膿症についてはこちら

 

<体重管理と日々の運動>

肥満はホルモンバランスに影響を与え、腫瘍のリスクを高める要因になることがあります。
そのため、普段から適切な体重を維持することが大切です。

・食事の内容や量を見直す
・毎日のお散歩や、無理のない範囲での運動を習慣づける

こうしたシンプルなことが、愛犬の健康維持につながります。

 

<年に一度は健康診断を>

乳腺腫瘍に限らず、早期発見のカギは「定期的な健康診断」です。
成犬であれば年に1回、7歳以上のシニア犬では年に2回の診断が推奨されています。

元気そうに見えても、体の中では変化が起きていることもあるため、定期的に獣医師にチェックしてもらうことが安心につながります。

 

<日常の観察とセルフチェック>

毎月1回を目安に、乳腺まわりにしこりがないかをチェックする習慣をつけましょう。

小さな変化にも早く気づくことができれば、治療の選択肢が広がり、愛犬の負担も少なくて済みます。

スキンシップの延長で簡単にできるため、リラックスタイムを活用しながら優しく確認してみましょう。

 

避妊手術についての不安や誤解を解消

避妊手術については、心配や迷いを感じる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。
ここでは、よくあるご質問についてお答えします。

 

Q.避妊手術をすると太ってしまうって本当?
A. ホルモンバランスの変化により、手術後は太りやすくなる傾向があるのは事実です。
ですが、食事内容の見直しや、日々の運動量を調整することで、体重管理はしっかり可能です。

 

Q.手術をすると性格が変わってしまうことはありますか?
A.一部の犬では、落ち着いた印象になることがありますが、もともとの性格が大きく変わってしまうことはほとんどありません
むしろ、発情期特有のストレスや行動がなくなることで、精神的にも安定しやすくなる子もいます。

 

Q.手術ってやっぱりかわいそう…
A.そう感じるお気持ちはとてもよくわかります。
ですが、避妊手術は乳腺腫瘍をはじめとした病気のリスクを大きく減らすことができ、健康寿命を延ばすためにも、非常に有効な手段です。
もちろん手術には不安もありますが、将来のリスクを減らすことが、愛犬の幸せな毎日につながります。

何より大切なのは、飼い主様ご自身が納得して選ぶことです。

「うちの子にとって本当に必要なことなのか」を、かかりつけの獣医師と一緒に考える時間も、愛犬の健康を守る大切なステップです。

当院の避妊手術についてはこちらから

 

まとめ

乳腺腫瘍は、早期に発見し、適切な治療を受けることがとても大切です。

そのためにも日ごろから愛犬の体に優しく触れ、小さなしこりや違和感に気づいたときには、できるだけ早く動物病院で診てもらいましょう。

また、避妊手術は乳腺腫瘍の発症リスクを大きく減らすことができるとされています。
手術に対して不安なお気持ちがある場合も、どうぞお気軽に当院までご相談ください。

当院では、乳腺腫瘍に関する検査や治療のご相談はもちろん、避妊手術に関するご説明やご不安、術後のケアについても、飼い主様と愛犬の気持ちに寄り添いながら、丁寧にサポートいたします。

 

姫路動物病院
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