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犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)|水をたくさん飲む、お腹がぽっこり…その症状、もしかして病気かも?

「最近、やたらとお水を飲むようになった気がする」「なんだかお腹だけぽっこり膨らんで見える」
そんなちょっとした変化に気づいたとき、それはクッシング症候群のサインかもしれません。

クッシング症候群(正式には、副腎皮質機能亢進症)は、犬に見られる慢性的な病気のひとつです。初期の症状は見逃されやすいのですが、放っておくと糖尿病や高血圧、皮膚のトラブルなど、さまざまな合併症を引き起こすことがあります。

今回は、クッシング症候群とはどんな病気なのか、どのような症状が見られるのか、そして診断や治療はどのように行われるのかを解説します。

中高齢の犬と暮らす飼い主様にこそ知っていただきたい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。

■目次
1.クッシング症候群とは?
2.見逃しやすい初期症状に注意
3.健康診断で見つかる肝数値の異常
4.診断方法
5.治療と管理
6.まとめ|「年齢のせい」と思わず、早めのチェックを

 

クッシング症候群とは?

クッシング症候群とは、副腎という臓器から分泌される「コルチゾール」というホルモンが、必要以上に増えてしまうことで起こる病気です。
コルチゾールは、代謝や免疫、ストレスへの対応など、体のさまざまな働きを調整する大切なホルモンですが、過剰に分泌されると体にさまざまな不調を引き起こします。

この病気は、特に中高齢の犬に多く見られ、なかでもトイ・プードル、ミニチュア・ダックスフント、ビーグルなどの小型犬で発症しやすい傾向があります。

犬の体内の臓器を示したイラスト。腎臓の上に位置する副腎の場所が矢印と赤字で強調されており、その他に心臓、肺、肝臓、胃、腸、脾臓、膀胱、尿道なども描かれている

 

また、クッシング症候群の発症にはいくつかのタイプがあり、大きく3つに分類されます。

<下垂体性クッシング症候群>

最も多いタイプで、脳の下垂体にできた腫瘍が原因です。この腫瘍が、副腎に過剰な働きを指示し、コルチゾールの分泌が増えてしまいます。

 

<副腎性クッシング症候群>

副腎そのものに腫瘍ができるタイプで、腫瘍がコルチゾールを大量に分泌するようになります。

 

<医原性クッシング症候群>

アトピー性皮膚炎や自己免疫疾患などの治療で、長期間にわたりステロイド薬を使用していた場合に起こることがあります。体の外からステロイドが入ることで、副腎のバランスが崩れてしまうのです。

 

見逃しやすい初期症状に注意

クッシング症候群は、ゆっくりと症状が進行していく慢性疾患です。そのため、初期の段階でははっきりとした変化が見られず、気づかれにくいことが多くあります。

しかし、早い段階でいくつかのサインに気づければ、進行を抑えることにつながる可能性があります。特に以下のような症状が見られた場合は注意が必要です。

水をたくさん飲むようになる(多飲)
尿の量が増える(多尿)
お腹がぽっこりと膨らんでくる(腹部膨満)
皮膚が薄くなり、毛が抜けやすくなる(左右対称性脱毛)
筋肉が落ちて体つきが変わってくる
食欲はあるのに体重が減る、または異常なほどの食欲が出る
皮膚にできた傷がなかなか治らない

これらの変化は、「年齢のせいかも」「ちょっと太っただけかな」などと見過ごされてしまうことが少なくありません。しかし、いつもと違う様子が続く場合は、年齢に関係なく早めに動物病院に相談しましょう。

 

健康診断で見つかる肝数値の異常

クッシング症候群では、血液検査で肝酵素、特にALTやALPの値が高くなることがあります。
これは、体内で過剰に分泌されたコルチゾールが肝臓に影響を与え、脂肪がたまりやすくなるため、脂肪肝のような状態を引き起こしてしまうからです。

特に、健康診断やワクチン接種の際に行う血液検査で「肝酵素の数値が高めです」と言われた場合、クッシング症候群の初期サインであるケースも珍しくありません。
また、尿比重の低下(おしっこが薄くなる)、コレステロール値の上昇、軽い貧血なども、診断の手がかりとなることがあります。

そのため、定期的な健康診断は見えにくい異常を早めに見つけるためにとても大切です。
症状が出ていないように見えても、体の中では少しずつ変化が起きていることがありますので、年に一度はしっかりと健康チェックを受けるようにしましょう。

 

診断方法

犬のクッシング症候群は、初期症状が加齢やほかの病気とよく似ているため、正確な診断がとても大切です。病気を見極めるためには、いくつかの検査を組み合わせて行い、体の中で何が起きているのかを総合的に判断していきます。

まずはじめに行われるのが血液検査です。
健康診断などでも行われる一般的な検査ですが、クッシング症候群の犬では、肝酵素(特にALTやALP)の値が高くなっていたり、コレステロール値の変動が見られたりします。また、白血球のバランスや電解質(特にナトリウムとカリウムの比率)も重要な手がかりになります。

次に、ホルモン検査でより詳しく調べていきます。代表的な検査には、次の2つがあります。

ACTH刺激試験
副腎を刺激するホルモン(ACTH)を注射し、その後のコルチゾールの変化を調べる検査です。
正常な場合は一定の反応が見られますが、クッシング症候群では、コルチゾールの反応が過剰になったり、逆にほとんど変化しなかったりすることがあります。

 

低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)
デキサメタゾンという合成ステロイドを投与して、体内のコルチゾール濃度がきちんと抑えられるかを確認する検査です。クッシング症候群の場合、コルチゾールが抑制されずに高いまま維持されることが多く見られます。

 

さらに、副腎の状態を詳しく調べるための画像検査も行われます。
腹部エコー検査やCT検査では、副腎の大きさや腫瘍の有無などを確認することができ、副腎そのものに異常がある「副腎性クッシング症候群」が疑われる場合には特に重要な検査となります。

このように、複数の検査を組み合わせて行うことで、クッシング症候群かどうか、そしてその原因が下垂体性・副腎性・医原性のいずれにあたるかを見極めていきます。

 

治療と管理

クッシング症候群の治療は、その原因によって方法が異なります。

 

<下垂体性クッシング症候群>

最も一般的なのは下垂体性クッシング症候群で、この場合は内服薬による治療が基本となります。
使用される主な薬剤にはトリロスタンなどがあり、副腎でのコルチゾールの合成を抑える働きがあります。
薬の投与を始めた後も、定期的に血液検査やホルモン検査を行いながら、薬の効果や副作用を確認しつつ、適切な投薬量を調整していきます。

なお、トリロスタンは効きすぎると、今度はホルモンが足りなくなるアジソン病(副腎皮質機能低下症)を引き起こすおそれがあるため、慎重な管理がとても重要です。

 

<副腎性クッシング症候群>

副腎性クッシング症候群は、副腎にできた腫瘍が原因であることが多く、治療の第一選択肢は外科手術による腫瘍の摘出になります。
ただし、副腎のまわりには太い血管が通っているため、手術には高度な技術が必要となります。さらに、全身麻酔を伴うため、愛犬の年齢や体調をしっかりと評価したうえで、慎重に治療方針を考えていくことが大切です。

 

<医原性(薬剤性)クッシング症候群>

医原性(薬剤性)クッシング症候群の場合は、長期間にわたってステロイド薬を使用していたことが原因です。この場合は、現在使っている薬を徐々に減らしていくことが基本となります。

ただし、急に薬をやめると体に負担がかかるため、必ず獣医師の指導のもとで、時間をかけて慎重に進めていきます。

 

いずれのタイプであっても、クッシング症候群は完治が難しいこともある慢性疾患です。
ですが、早期に発見し、適切な治療と管理を行うことで、愛犬がこれまでと変わらない生活を送ることも十分に可能です。

日々の暮らしの中で「ちょっと変だな」と思うことがあれば、早めに動物病院で相談しましょう。

 

まとめ|「年齢のせい」と思わず、早めのチェックを

「歳のせいかな」と見過ごしてしまいがちな行動の変化が、実はクッシング症候群のサインであることも少なくありません。
水をたくさん飲む・おしっこの量が増える、お腹がぽっこりと膨らむ、毛が抜ける、皮膚が薄くなるといった症状は、どれも日常の中で気づきにくいものですが、早期発見の大きな手がかりになります。

クッシング症候群は、早い段階で見つけて適切な治療を始めることで、重症化を防ぎ、愛犬が穏やかに過ごせる時間をしっかりと保つことができます。

当院では、ホルモンの異常が疑われる症状に対して、詳細な検査を行い、原因に合わせた治療をご案内しております。
「もしかして…」と思ったときは、どうぞお気軽にご相談ください。

 

姫路動物病院
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